聖地を訪ねて
「グランドセイコースタジオ雫石」見学

先日、日本の機械式時計の聖地ともいえる地、岩手県雫石市に構える「グランドセイコースタジオ雫石（盛岡セイコー工業株式会社内）」を見学する機会に恵まれました。

もともと、グランドセイコーは、クレドールなどと共に同敷地内にある「雫石高級時計工房」で製造されていましたが、グランドセイコーに特化した施設として2020年に設立されたのがこの工房です。こちらでは「SLGH005（白樺）」やその手巻モデル「SLGW003」など、機械式グランドセイコーの製造を専属で行っています。

おりしもコロナ禍の中でのオープンとなったこちら。今回、私にとっては待ち焦がれた訪問となりました。

グランドセイコーのブランドフィロソフィー『The Nature of Time』が反映された木造の工房は、建築家 |隈研吾氏の設計によるもの。オープンから4年経った今でも木の香りに癒されます。
そして、開放感のあるガラスの窓を通して屋内からも周りの自然を大いに感じることができます。

自然との調和、共生を目指す盛岡セイコー工業は、工場排水の徹底的な無害化、生物多様性保全活動などさまざまな取り組みを行っています。

敷地内の緑地は動物たちの住家ともなっており、この目の前の庭にもキツネやタヌキはもちろん、ときにツキノワグマ、先日は天然記念物のニホンカモシカが現れたそうです。

一階のエントランスはグランドセイコーの歴史など伝える展示場となっています。
こちらは1960年の初代グランドセイコーをはじめとするオリジナルモデル。その他に45GSや62GSも。

「SLGH005（白樺」」等に搭載されるキャリバー「9SA5」の解体模型。

受けや地板等、各パーツの仕上げを確認できる模型。

（左）ケースの中で虫のようにすら見えるのは、調速機周りで使用されるビスです。（右）そのあまりの小ささは、米粒と比較することでよくわかります。

美しく厳粛な雰囲気のある回廊沿いに工房が置かれています（画像右側）。自然光を取り込める部屋は、組立師にとって最良の環境となります。
また、この回廊は見学コースとなっており、ガラス越しではあるものの間近に組み立てや調整作業を行う様子が見られます。

※撮影禁止のため公式HPより引用

高い天井をもつ整然とした工房は、温度や湿度の空調に加え、塵や埃が立たぬよう部屋の気圧も制御されたクリーンルームとなっています。

「現代の名工」に選定された伊藤勉氏を筆頭に、技能競技大会の受賞者が在籍するこちらは、まさに日本の時計製造におけるエリート集団で、個々に岩手県の伝統工芸 岩谷堂箪笥による特注の作業デスクが提供されています。

明るく温もりの感じられる2階ラウンジ。こちらも隈研吾氏のプロデュースによるものとのこと。
奥のショーケースにはグランドセイコースタジオ雫石オリジナルモデルが展示されており、ここでのみ購入することが可能です。
また、グランドセイコー初のコンプリケーションウォッチ、「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」のプロトタイプも展示されています。

あいにくの天候のため見えませんが、このラウンジからは、その山肌の様子が文字盤のパターン（※SBGH301、SBGJ265）ともなっている岩手山を眺めることができます。

今回の訪問は、グランドセイコーが生まれる背景、卓越した匠の技と情熱、作品にインスピレーションを与える自然という、まさにブランドフィロソフィーそのものを感じることができました。特に後者は、グランドセイコーを単なる工業製品ではない、命が吹き込まれたような作品へと生まれ変わらせます。

組立師が時計を組み上げる様子や、美しい美術館のような建物に目が行きがちではありますが、それら周りの自然と溶け込み、さらにそれを守る。やはりここは聖地と呼ぶにふさわしい地でした。
改めまして今回関わってくださった皆様に深くお礼申し上げます。

なお、こちらの施設は一般の方でも見学が可能です。グランドセイコーの機械式をお使いの方は時計に里帰りをさせるというのも良いのではないでしょうか。
ただ、海外から訪れる方もいるほど人気らしく、枠はすぐに埋まってしまうようですので予約（※詳細はこちら）はお早めに。